競馬の話 その2 | 大記録へのカウントダウン。

その人は50年近く前に単身福岡から上京し、大井競馬場の厩舎に騎手見習いとして住み込んで競馬人としてのキャリアを踏み出しました。

厩舎の一日は半端なく早いです。2時、3時から起きだしては馬の世話をし掃除をし、調教を乗って体を洗ってやり、飼葉をつけ(ゴハンをあげること)、それから学校に行きます。身体の小さな中学生だったその人にはタフな日常で、授業ではいつも居眠りをしていたと言います。義務教育を終えて地方競馬教養センター騎手課程に入ってからは、同期の候補生たちがキツイキツイと根を上げるのを横目に、「(厩舎と学校を往復する生活に比べて)天国のよう」と感じたそうです。

小柄な中学生だったその人が、日本競馬史上、おそらく誰にも破られることのない金字塔を打ち立てようとしています。
的場文男。61歳。2018年7月24日正午現在、地方競馬通算7,147勝。

現時点での最多勝利記録は7,151勝、佐々木竹見さんという方が持っています。
私は竹見さんの現役時代を知りませんが、59歳で引退されています。失礼ながら、最後の方はあまり勝てなかったと聞いています。

的場さんは違います。とにかくがむしゃらに、勝ちにこだわります。還暦を過ぎても、昨年もいくつもの重賞レースを勝っています。つまり、還暦を過ぎてもトップジョッキーなのです。
勝ちにこだわるので手加減などしません。何年か前に大井競馬で「的場文男デー」というイベントをやったときも、自らがプレゼンターとなるメインレースを自分で勝ってしまいました。昨年、佐賀競馬で毎年開催される九州出身のジョッキーによる「里帰りジョッキーズ」というイベントで、的場さんの7,000勝を記念して行われた「的場文男チャレンジカップ」でも自身が優勝し、続いて行われた「的場文男レジェントカップ」では勝てなかったことをめちゃくちゃ悔しがり・・・しかも優勝したチャレンジカップは、地元佐賀競馬の若手ジョッキー、ヘタすると孫のような年齢の若手を相手に大差ぶっちぎりの勝利、「プレゼンター=勝利ジョッキー=自分」という表彰台でした。

還暦トップジョッキーの的場さんは、大井の後輩騎手たちにとって「倒さなければならないガチのライバル」であり、目標です。ですから彼らも決してヘンな遠慮や気遣いはしません。昨年5月12日、7,000勝にあと1勝と迫った大井競馬場でのメインレース。大井開催の騎乗はこのレースを含め残り2鞍、地元で7,000勝達成なるかという瀬戸際のメインレース。平日夜の大井競馬場を埋めつくした大観衆(私を含め)が割れんばかりの大歓声で迎えた直線、壮絶な叩き合いの結果、的場さんは大井の後輩・和田譲治騎手に首差競り負け、結果地元での7,000勝達成は叶いませんでした。

(興味のある方はこちらから。過去レース検索より2017年5月12日の11レースをご覧ください。赤に白星散らしの勝負服が的場さん。競っているのは大井の中堅・和田譲治騎手。)

このあと、翌週の川崎開催で、しかも重賞レースで、的場さんは7,000勝を達成します。
それはもちろんスゴイことなのですが、私には前述の首差負けのレースの方が強く強く印象に残っています。
還暦を過ぎた的場さんが、後進にとって決して労わったり気遣ったりする存在でなく、常に全力で挑み、倒さなければならない目標でいることが、嬉しくて仕方なかったからです。

その的場さんも、6,000勝や6,500勝のときには、7,000勝や竹見さん越えの7,152勝など「無理、無理」と言われていたと聞きます。
それが今、本当に本当にあと少し、手の届くところに来ています。あと4勝で並び、あと5つの勝ち星で新記録です。諦めず、努力してがむしゃらに戦ってこられた、ただただその結果なのだと思います。

的場文男騎手 地方競馬通算最多勝利記録7152勝 特設サイトはこちら。

努力すれば、夢は必ず叶います。いくつになっても努力するのに遅すぎることなど決してありません。
今日も馬上で躍動する赤胴白星散らしの背中が、言葉ではなく教えてくれた、かけがえのない真実です。

 

レジェンド的場文男騎手、前人未到の7152勝まであと5勝!

 

FYI, 「競馬の話 その1」はこちらから。