【再掲載】令和元年7月1日 改正民法施行に思うこと | 超高齢社会をともに迎える東アジアのお手本になろう

令和元年7月1日,40年ぶりに,時代に即して大幅に改正された相続法が施行されました。

残された配偶者が住まいを失うことのないように創設された配偶者居住権の概念(施行は令和2年4月1日),持戻し免除の推定,遺言方式の緩和など,その多くが,被相続人(亡くなる人)も相続人(残される人)も高年齢化している現状を踏まえ,同時に,残された配偶者がその後も長く生きることを想定し,さらには相続が高齢の相続人の負担にならず円滑確実に行われるように,などの配慮に根差しています。

先日,NPO法人終活支援センター千葉さんのセミナーにて,「超高齢社会の終活」をテーマに登壇させていただきました。その内容に少し触れてみます。

65歳以上の老年人口が総人口の21%を超えると,それは「超高齢社会」と定義されます。
我が国の老年人口の割合は平成30年9月の数値で28.1%。総人口1億2,642万人のうち,老年人口は3,557万人。3.55人に一人が65歳以上という,もちろんこれは人類史上類を見ない高水準。女性だけに限れば,すべての年齢の女性のうち65歳以上の方が占める割合は実に3割を超えています。
老年人口は,2040年~2045年をピークに,そこまでは増え続けると予測されています。その後は下降線をたどりますが,同じように,もしくはそれ以上の速さで生産年齢人口も減少が予想され,2065年には生産年齢人口1.3人で,一人の高齢者を支える構図になると言われています。
この時代を生きる我々ひとりひとり,先日の金融庁ワーキンググループの報告書原案にあったように,ただ年金をあてにするだけに終わらない備えや行動は不可欠です。

それにしても,年金問題と言い,なぜ日本の少子高齢化がこれほど問題なのでしょうか。実は答えは簡単で,欧米の古くからの先進国と比べて,我が国の高年齢化が急激な上昇カーブを描いて訪れたからに他なりません。

(内閣府・令和元年版高齢社会白書「2 高齢化の国際的動向」より)

 

こちらは,そのセミナーでもご紹介したグラフ。老年人口が7%を超えると「高齢化」社会となり,14%で「高齢」社会と呼ばれます。欧米先進諸国と比べて,我が国がいかに短期間で高齢化の道を歩んできたかがわかります。

もうひとつこのグラフから気づくことは,東アジアで急激な経済発展を遂げた国々が,我が国と同じ道のり,もしくは我が国よりも急速な高齢化への道を,ちょうど30年ほどの遅れをもって歩んでいるということ。

我が国と同じ道のり。少子高齢化。それによる労働力の不足。特定の産業分野での担い手の不足。介護人材の不足。

あれ・・・どれもどこかで聞くようなフレーズ。

そう。今年施行された2つの改正法,民法と入管法(出入国管理及び難民認定法),改正の根幹は,どちらも実は同じところにあるのです。


アジア先進諸国は,ほんの少し前まで我が国をお手本とし,日本に追いつき,追い越せと,経済を発展させてきました。そして今,前述したように同じ道のりを歩んでいます。

東南アジアの働き手,ことにベトナムやフィリピンの介護人材は,日中韓の三カ国ですでに争奪戦が始まっています。むしろ施設型介護が中心の我が国は遅れを取っている状況と言えるでしょう。

その中で,我が国がどうやって「選ばれる国」となるか。それには,政策はもちろんのこと,受け入れる事業者の方や送出しに関わる日本人,外国人に接する私たち法律専門家,そして彼らを一員として迎える日本社会,誰もが自身がステークホルダーであるという認識を持たなければいけません。すべての関係者ひとりひとりの意識と行動とにかかっています。

日本型介護の評価が高まり,日本で介護職に就いて技術を持ち帰ろうと志すアジアの若者が増えているのは大変喜ばしいことです。
評判の悪い技能実習制度においても,平成29年11月の新法施行と同時に始まった後発業種の介護は,常に人目のある場所で人間を相手に就労するという,他の業種にはない特性を持っていることもあり,旧制度の悪弊には染まっていません。
平成31年4月に始まったばかりの特定技能「介護」も,本日これを書いている時点ではまだフィリピンからの送出しこそ始まっていませんが,これまで一歩を踏み出せずにいた全国の介護事業者の方が,熱い視線を寄せておられます。

どうかこの流れに乗り,多くのアジアの若者たちに,希望を持って我が国にやって来て,介護の担い手となってほしい。その技術をいずれ彼らのうちのいくたりかが核となり,周辺アジア諸国に広めてほしいと,心から思います。
その支援を,私は法律家として終活と並ぶ「もう1本の大きな柱」と掲げ,日々活動しています。


新しい制度による外国人材の受入れには,5年間で34万人という上限が設けられています。

この34万人という数値,人手不足に直面している14の産業分野を代表する団体が,それぞれ算出した,「ある数」の合計です。それは,結婚で家庭に入り子育てがひと段落した女性の社会復帰や,元気な高齢者の雇用を促進し,ITやAIなどの先進技術を活用して労働生産性向上を図っても,なおかつ不足すると見込まれる数,というもの。

そして,最近気になっているもうひとつの数があります。

40歳以上が61万人。全年齢層の合計で120万人,一説には200万人とも言われるその数。

8050問題というヒントでお分かりになると思います。「引きこもり」と呼ばれる方の数です。
8050問題とは,例えば80歳の親が自らの年金で引きこもりの50歳の子を養うように,高齢の親に扶養される引きこもりの子の問題を表わしています。親子共倒れの危険や,親なき後の生活保護費負担の増大などが見込まれる,超高齢社会ならではの大きな社会問題です。いくつかの痛ましい事件などを経て,この問題には政府もようやく重い腰を上げつつある感があります。

120万人のうち,3割弱の方が労働の担い手として社会に出る(戻る)ことができれば,極論すれば34万人の外国人材の受入は不必要という考えも成り立ちます。(現実的に人手不足に悩む産業にただちにまんべんなく就労してもらうことは不可能であり,外国人を労働力として受入れることに私は賛成の立場ですが)120万,200万という数がそれほどの大きさであることがイメージしていただけるかと思います。

家族信託という仕組みがあります。
信託。読んで文字のごとく,「(誰かを)信じて(何かを)託す」,契約です。
2007年の法改正以降,少しずつ浸透しつつありますが,その便利さ柔軟さ,カバーする範囲の広さにも関わらず,まだ知名度は決して高くありません。

信託登記された財産は(遺留分を侵害したり債権者を詐害したりするものでさえなければ),本人の財産の枠の外に置かれます。
たとえばお子さんのうちの一人が引きこもりである場合など,法定相続分の割合で遺産分割して,引きこもりの方がいきなり財産を保有することになるのを懸念される親族の方がおられます。何年も社会と接点を持たず財産管理もできないお子さんに突然まとまったお金が入っても,使ってしまうか,もしくは使い方がわからないか,あるいは騙されることも心配しなければならないでしょう。
このような場合,毎年一定の額をお子さんに渡すなどの自由な設計が,信託にはできるのです。

引きこもりの方ご本人やご家族に対する支援は,あくまでも現在のところカウンセリングや居場所づくりといった側面が中心であると感じます。もちろん欠かすことのできないものではあるのですが,親御さんの中にはご自身が亡くなったのちのことを心配するあまり,悪質な「引出し業者」に数百万円を支払い,かえってお子さんに取り返しのつかない心の傷を負わせてしまうケースもあります。
法的側面からの助言や正しい情報の提供,就労の機会の提供など,法律家と企業からの支援はまだまだ追いついていないように思います。敢えて問題提起させていただきたく,ここに記しました。


ここまで超高齢社会について述べてきましたが,正直,高齢化率の定義で65歳以上を「老年人口」とすることに違和感を禁じえません。私たちの周りには,素敵に活躍されている「オーバー65」の男女がどれほど多いことか。

政府の報告書でも「エイジレス社会」という考え方が打ち出されています。年齢で区別するのではなく,技能や意欲,健康状態に応じて,誰もが自分にあうかたちで社会に参加できる,そんな柔軟な社会です。

日本の急激な高齢化の道のりは,世界中のどの国も経験したことのない未知の領域です。
また,リアルに人と接してコミュニケーションを持ち,協調し,時には対立し,和解する,これらの行動が求められる局面は,インターネットの普及により間違いなく減ってきました。それは我が国だけでなく,アジアの先進諸国においても程度の差こそあれ同様でしょう。そのことは,単純な人口ピラミッドに基づく少子高齢化だけではなく,日本の引きこもりの方のように他者と交渉を持たずに齢だけを重ねていく方が,アジア諸国でも今後増えていくだろうという推測を導きます。

もしも私たち日本人が,我が国が,考え方,行動,社会の仕組みそのものを変えることで,そして外国人の手も借りながら,理想の社会への道筋をつけることができれば,その仕組みこそ,もう一度アジアのお手本となるにふさわしいものであるに違いありません。


民法と入管法。一見まったく縁のない,でも実は根幹において大いに似通った大改正に立ち会っている私たち。
条文ひとつひとつを読み込み読み解くことももちろん大切な作業ですが,時には大きな視点で法と社会を見つめてみたいと思います。

そんな視点が,今日の多様化した社会で認められつつあるさまざまな家族のかたち,たとえば同性婚カップルやおひとりさま,子どもを持たない選択をするご夫婦,入籍せずとも生涯愛し続けるカップル,そして引きこもりのお子さんを持つ親御さん,すべての方の力となりますように。

そしてこの文章が,どこかで明日の法律専門家を目指す方の目に触れ,物事の末節に捉われない大きな視野を持っていただくことにもお役に立てるようでしたら,大変嬉しく思います。

 

 

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